映画なまもの

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【國民の創生】バース・オブ・ネイション【町山智浩】

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東京国際映画祭にてバース・オブ・ネイション(The Birth of a nation)を鑑賞いたしました。1831年、黒人が奴隷として扱われていた時代に、最初の反乱を率いた伝説的人物、ナット・ターナーを描いた作品。製作・脚本・監督・主演の全てを若手俳優であるネイト・パーカーが行い、サンダンス映画祭でグランプリ&観客賞の2冠を獲得した話題作。また、ネイト・パーカーは今作が初監督作品でもあります。

今回は町山智浩さんの解説も聞くことができたので、それを踏まえて自分の感想を述べたいと思います。

 

今作と人種差別

 


上映前の映画解説者 町山智浩さんの解説によると、今作はサンダンス映画祭で最も注目された作品だったとのこと。その理由は二つあって、ひとつはこの映画が世界で初めてのアメリ長編映画である『國民の創生』と同名のタイトルであること、もうひとつは今作のテーマが現代の課題に置き換えられるからだそうです。

 

ひとつ目の理由である『國民の創生』は1915年に公開されたD・W・グリフィス監督による作品。今の映画の基礎を作った作品で、現代の映画で必ず見る手法の多くはこの作品から生まれたとのこと。(ひとつの場面を複数カットを割ることや、クロスカッティング、フラッシュバック、トラックバック・後光表現など)今でも映画学校に通えば、必ず観なさいと言われるような名作だそうです。

 

作品自体の評価もとても高いのですが、『國民の創生』にはもうひとつ話題になったことがあります。それは、物語が白人視点から語られることです。詳しい説明は省きますが、『國民の創生』は南北戦争後の混乱を白人の視点から話し、KKKなどの差別団体を英雄として描きました。そのため、当時は非常に差別的であるという非難を受けたそうです。そして、興行的には成功したものの、実際にKKKを復活させ、黒人差別を助長してしまったという過去があります。

 

そんな、映画的にも社会的にも大きな影響があった『國民の創生』。これに対してアンチテーゼとして、今回ネイト・パーカー監督は同名のタイトルで、全く逆のテーマ(黒人奴隷の反乱)を発表した事が注目の理由のひとつとなりました。

 

二つ目の理由は、現代のテーマに置き換えられること。2016年7月にルイジアナや、ミネソタで警察官が無抵抗の黒人を射殺する事件が起きました。その一部始終を撮影した映像が、SNSで拡散され、警察官の過剰な暴力が大きな話題となりました。さらに、警察官の暴力に対してデモが行われる中で、今度は警察官が一般人に殺害されるという事件が起きました。警察官を殺害した犯人による、意図的に白人を狙ったという発言もあり、新たな人種差別が始まってしまうのではないかと、懸念されているそうです。

 
そんな人種差別が現実の問題として直面しているこの時期に、人種差別を扱った『バースオブネイション』が全米で発表された事が注目されている、もうひとつの理由だそうです。

 

作品感想

 


映画として非常に面白く、楽しめました。重いテーマですが、わかりやすく娯楽映画として、非常に見やすいです。そして、ひとりの男が圧倒的に不利で理不尽で辛い状況から、覚悟を決めて立ち上がり、行動を起こした事に感動しました。過酷な時代を生き抜いた人達の意志を、インパクトのある映像で描き、見終わった後は、凄いものを見たという満足感を得ることができると思います。

 

町山さんによると、映画の中で起こった事がすべて真実では無く、多少の脚色はしているとのことです。(わかっている部分は記事の一番下にリストにしておきます) しかしながら、その変更部分が良い意味でストーリーをよりドラマチックで魅力的にし、観客に対して、彼らが受けた暴力と屈辱を印象付け、脳裏に焼き付ける事に成功していると感じました。

 

ネイト・パーカー監督はこの映画の製作に7年をかけたそうですが、反乱を起こしたナット・ターナーも反乱の準備に緻密に行い、長い時間をかけたそうです。ネイト・パーカー監督はインタビューで、「次に誰かが『國民の創生(The Birth of a Nation)』をインターネットで検索した時、D・W・グリフィスの『The Birth of a Nation』ではなく、僕の『The Birth of a nation』になるようにしたい」と発言しています。反乱を起こしたナット・ターナーに監督が自分自身を重ねたかどうかはわかりませんが、今ある歴史・習慣を変えるために、自分の作品を撮りきった監督はすごいですね。

 


作品の中でナットの妻が言う「剣を持つものは剣によって滅ぶ」というセリフがとても印象的でした。KKKがやった事、ナット・ターナーがやった事そして、今アメリカの人達の中で起きてる事に対して、どうしていくべきか。監督の回答はここに含まれていると思います。しかしながら、ナットが剣を取る以外に逃げ場がなかったのも事実で、そのような状況から抜け出すためには、どうすればよかったのか。剣以外の武器は何があったのだろう?と今でも考えてしまいます。

 

いずれにせよ、反乱をやりきったナット・ターナーの物語と、それを描ききったネイト・パーカー監督に変化を起こそうとする強い意志の強さを感じ、心が揺さぶられました。

 

脚色された部分

 

この映画を盛り上げる為に脚色された部分と、実際にあった部分を下記にまとめました。ネタバレ含みますので、ご注意ください。

 

実際に起こったこと

  •  作戦決行前の日食
  •  ナイフでの殺害
  •  ナットの解剖

 

脚色されたこと

  •  計画は時間かけて練られた
  •  奴隷主のサミュエルは病死
  •  ナットはサミュエルを殺してない
  •  最後の戦いで全員が全滅してない
  •  徐々に人数が減っていった
  •  ナットの妻は先に死んでいた

 

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

最後にフォトセッション中の町山さんの写真を貼っておきます。

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